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家主のものがほとんどないその薄暗い空間は、彼以外の人が使うことのほうがずっと多いのだろう。
そこには、小花柄の可愛いポーチがちょこんと鎮座していた。私のものではない。もちろん、義之のものでも。
また分かりやすくマーキングなんてされちゃって。
私は溜息をついた。
義之が私以外の女の子を部屋に連れ込んでいるのは知っている。義之自身も隠していない。
セックスだけが目的の割り切った相手を選んでいるとは言っていたけれど、本人の気づかないところでこういう鞘当てがちょいちょいあったりする。
そのたびに、遊び慣れてない義之の目の節穴加減に私はあきれるのだ。
そのくせ顔と学歴は妙に良いから、恋人の座を狙う女の子はあとを絶たない。
私は今日もまたそれを見なかったことにして自分の化粧道具を奥から引っ張り出す。かわいそうに、隅っこに追いやられたメイクセットは湿っぽくなっている。
恋人でもないから義之に文句を言うこともできない。
どこの誰かは知らないけれど、ポーチの持ち主に心の中で語りかける。
あなたの敵は私じゃないですよー。こんなことしても無駄ですよー。
多分、最大の敵は、彼の心に今も住みつく彼女だ。その幻影。
こんなとき、義之の中で自分の存在がいかに小さいかを思い知る。
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