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とっくに滅びてるこの世界で、今日も早起きする私step by day。狭いね、なんて言ってられなかった。だってあのステージだけが、あたしのすべてだった。あたしがラップを始めたのは丁度一年前。女子高生ラッパーなんて珍しくもない時代。小学生だってユーチューブで年商一千万稼ぐ時代。やりたいことしかやりたくないあたしは、一刻も早く始める必要があった。じゃないとあっと言う間に大人になって、その先に待っているのは意味も目的も感動もなく、ただ生きる為に生きて死ぬ為に死ぬだけのコンクリートに塗り込められた日々だってこと、あたしは知ってたから。そんなの大人にならなくたって分かるし、大人になってしまえばきっと分からなくなる。それに気付きながら大人として生きることは、きっと生きることに耐えられなくなるくらい辛いことだろうから。だからあたしはラップを始めた。あたしがあたしとして生きていくには、それしか手段がなかった。
最初は、やっぱり宅録した音源をサンクラに上げるところから始めた。ネットで拾った著作権フリーのトラックに、書いたリリックを乗せてラップした。十年前、平成が終る頃にはもうそれが一般的な方法になっていて、それ以上に有効な方法はまだ見付かってない。あたしが生まれるずっと前、平成が始まる頃にはインターネットもなくて、宅録した音源なんか発表できる場所はなかった。まずはライブハウスにデモを持って行って、そこで認められてライブをさせてもらえない限り、作った曲が誰かに聴かれることなんてなかった。そういう時代があったんだと、大人が教えてくれた。だけどあたしには生まれた時からインターネットがあった。インターネットで勝つ為の文法ももう殆ど出尽くしてしまっている。誰がそれをやるかだけの違いで、しかもそれは誰もができることだ。だったらもう、そんなものは戦略とは呼べない。ただの運。あたしはだから、運に縋った。
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