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会話だって、それが自然に見える為にはむしろある種の不自然さがなくてはいけないのだと思う。滑らかに流れ過ぎる会話は自然じゃない。男の顔には、そうした不自然さが見受けられなかった。何かプログラムが先にあって、きっとこの男はただそれに従っているだけなんだ。それは、そんな不信感をあたしに抱かせる表情だった。そのプログラムっていうのは例えば、「自分はすべてを見透している筈」という自信かも知れない。議論を全く受け付けなさそうなその眼には、そんな自明性が浮かんでいた。
「じゃあ、次の質問いいですか。今回の曲では今までのサンクラ時代の曲とかとは少しフロウを変えてますよね。これには何か理由があったりするんですか」
「あ、気付いてくれました? やった! もっと自分に合ったフロウがあるんじゃないかっていうのは正直思ってて。自分でちゃんと自信持てた方がやっぱ聴いてくれた人にももっと伝えられると思うし。それでこういう風にしてみました。何て言うか、今までのは"好きな人は好き”って感じだったと自分でも思うんで。もちろん、それを好きって言ってくれる方々が居てくれたことは嬉しかったんですけど、それじゃ届かない人には届かないかもなって」
「なるほど、分かりました。では、誰かに思いを届ける資格が自分にはある、とあなたが考える根拠は何ですか」
「は?」
「ですから、別に誰もあなたに想いを届けて欲しいなんて思ってない訳ですよね。それを、自分の一方的な都合で"届けていい"と思った根拠とは何なのか、ということをお訊きしてる訳です」
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