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由美は部屋で携帯電話の画面を眺めていた。
《萌、一歳の誕生日おめでとう。今日は萌の長い人生の中で記念すべき日。心からお祝いしています。お父さんが近くにいてやれなくてごめんね。》
二日前に一郎から届いたメールだった。それを見ながら由美は栄子が草津に泊まった日のことが気になっていた。
(あのとき何で栄子は電話を切ったのだろう・・・)
栄子に対して怒りを覚えていた。栄子に対する感情がこんな風になることは初めてだった。それからは栄子に電話をしていない。栄子からも何の連絡もないことが更に嫌疑している心情に拍車を掛けた。
一郎からのメールの内容も萌に対するメールであり、自分には一言もないことが気になっていた。
〝コンコン〟
ドアを軽くノックする音と同時に、
「由美いいか?」
と父の忠雄の声が聞こえた。
「どうぞ」
ドアが開くと缶のお茶を二本持った忠雄がグレーの寝巻き姿でゆっくりと入ってきた。
「萌は寝たのか?」
「うん」
ベッドの奥を覗き込む忠雄。白髪交じりの髪だが若々しいヘアスタイルが忠雄を精かんに見せていた。背が高く凛々しい顔つきの忠雄に由美はよく似ていると言われる。
「飲むか?」
「ありがと」
黄色のパジャマ姿の由美はお茶を受け取った。
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