《My first love》

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《My first love》

 会社から帰り、我が家の郵便受けのダイヤル・ロックを解く事に、多少なりとも心を躍らせている自分に気づいたのは、二十五歳を越えてからではないか、と而立(じりつ)手前の二十九歳の西条(さいじょう)慎(しん)二(じ)は、実際にロックを施錠している最中に顧慮してみた。またそんな感慨に突然襲われた理由は、夜空に浮かぶ雲がかった艶っぽい月輪(がちりん)のせいではなく、単に日頃から溜まった疲労が原因である、という事も同時に理解して。 とはいえ、どうして二十五歳からなのか。  それは当時の社内検診の際、ブドウ糖負荷テストの空腹時の血糖値が120mg/dlと判定され、糖尿病予備軍と診断された、成人式よりリアルに大人の仲間入り感を果たした年齢だから、だったからか? とはいえ、どうしてそれが理由で郵便受けを開ける事に妙な期待をするようになったか。  西条は無駄に思案する。      
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