第1幕「天使降臨」

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 言われたことに耳を疑い、ミコトは勢いよく振り向く。すると、いつの間に近寄って来たのか神の顔のどアップが眼前にあった。 「ちょ、近」 「いいですかミコト。私は同じ事を2度は言いません。」  ズズィと、さらに神が顔を寄せる。柔和な笑顔が張り付いたままなのが逆に怖い。思わずミコトは背をそらして距離を保つ。 「いやあの。この下って人間界…」 「ええ。今からそなたには人間界に行ってもらいます。そして、困っている者を助け、徳を積みなさい。さすれば、そなたは"見習い"から卒業できましょう。」 「でもでも。私まだ"翼"も授かって無くて…」  神はさらに顔を寄せる。何処までも寄せる。ミコトの体勢はもはやエアーブリッジ状態となり、腹筋と背筋には良い具合にストレッチパワーが蓄積されている。 「"翼"など必要ありません。どうしても欲しいならレッド〇ルでも飲めばよいでしょう。」 「話の流しかた雑ッ!」 「いいから、つべこべ言わずに…お逝きなさいッ!」 「ちょ、漢字、字が違うからっアッ――――」  神の見事なケンカキックが炸裂し、ついにミコトは"神の間"からリングアウトしてしまった。 「あ――――れ―――――お願い翼を授けてレッ〇ブル――――」  見る見るうちに空を突っ切って降下していくミコトを見守りつつ、神は静かに目を閉じた。 「―――愛しいミコト。いかなる時も、強く、慈愛を持った天使でありなさい。そなたもまた、私の一部なのだから。」  先ほどまでのやりとりなど無かったかの様な祝福を、ミコトに注ぐ。神の心は今、溢れんばかりの愛情で満ちている。それは深い悟りを開いた先にたどり着く、賢者タイムをも超越した領域―――(ゴッド)タイムだった。
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