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アリの息子は申し訳なさそうな顔を見せると、渡された全てのお金を返し、キリギリスのマネージャーに一通の手紙を渡しました。その手紙にはこう書いてありました。
「お金ありがとう御座います。だけど父は助かりませんでした。できればこのお金を使い肺病を根絶できるお医者さんを育てて下さい。僕では力不足なので、宜しくお願い致します」
「ふん貧乏人め」
キリギリスは豪邸の書斎の机に足を投げ出したまま、次の一手を打ちました。キリギリスは自分の名前を使い、キリギリス肺病撲滅基金を作ると、才能のある医学生にお金を配ることにしたのです。
だけれど世の中には良い人ばかりはいませんでした。キリギリスはテレビのトークショー番組に呼ばれると、意地悪な司会者にこう聞かれました。
「世間はあなたのやっていることを、死人を使った売名行為だと言っていますが、どう思われますか?」
お父さんの入院費を返すため、自動車工場で働き始めたアリの息子は、食堂のテレビに映ったキリギリスを見つけると、青い顔になりました。余計なお願いをしたせいで、キリギリスが世界中の人々から袋叩きにあっていることに、気がついてしまったからです。
それなのにテレビのなかのキリギリスは怯むと言うことを知りませんでした。彼は深く座った椅子のうえで、悠然と長い脚を組んだまま、こう言いました。
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