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桜舞う頃
ここ数日の暖かな陽気に誘われたように、一斉に花開いた桜が毬のように集まって咲き誇っている。
雲野彰仁は、その薄紅に染まった大木の下で、艶やかに陽の光を弾く黒いランドセルを背負い、ダークグレーのスーツに身を包んだ榊龍之介と向かい合っていた。
「彰、ぼくも今日から小学生になったよ。だから、ぼくと結婚してください!」
頬の柔らかなまろみを桜と同じく薄紅に染め、期待を込めた眼差しで真っ直ぐに見上げてくる視線が眩しくて目を眇める。ほんのひと月前まで幼稚園の制服に身を包んで園庭を走りまわっていたはずの龍之介が、真新しい三つ揃えのスーツにワインレッドのネクタイを締めた姿は、やけに大人びて見えた。
生まれたばかりの頃に隣に越してきた龍之介は、一人っ子の彰仁には弟みたいに可愛い存在で、龍之介の願いならばできることは全て叶えてやりたいと思っていたけれど……。
「龍、それは無理だって言っただろ? 男同士で結婚することはできないんだよ」
そもそも、今年で7つになる龍之介と彰仁の歳の差は10歳だ。男同士ということを差し引いても、そう簡単に承服することはできない。
なにより、今はそう言ってくれているけれど、龍之介が中学高校と進学していけば、新しい友達との世界も広がって、今までのようにずっと一緒にいることも無くなる筈だ。
そうなれば、本当に好きな相手が現れたときに、この想いが恋愛感情ではないことに気づき彰仁のことが重荷になるかもしれない。疎まれて関りが薄くなってしまうことだけは嫌だった。
「嫌だ! ぼくは彰と結婚したいの! いつになったらいいよって言ってくれるのさ?」
癇癪をおこしたように、頬を紅く上気させて叫ぶ龍之介の大きな栗色の瞳にはうっすらと水の幕が張り、今にも雫となって丸い頬を滑り落ちてしまいそうになっている。
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