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――龍之介の好きは、兄弟に対する親愛の情とおんなじものだとわかっているのに……。
ほんの少し、本当に恋してくれていたらいいのに、なんて思ってしまうなんて。きゅっと締め付けられるような胸の痛みも、龍之介が与えてくれるものなら嬉しいと感じる自分が間違っていると、彰仁もわかってはいるけど……。
不意に、柔らかな温かいものに頬を包まれて我に返る。まだ、指の付け根にえくぼのような窪みの残る小さな龍之介の手が、彰仁の頬に触れていた。
「彰ぃ~。どうしたらわかってくれるの? どうしたら……『うん』って言ってくれるの?」
まだ涙に濡れた大きな瞳で彰仁を見つめたまま、哀しげな途方に暮れた龍之介の声に胸の痛みが増す。
いつもなら、『諦めないからね!』と言われて、とりあえずその話は終わりになるのに、小学校に入学して大人になった気分からなのか、今日は更に食い下がってくる。
――結局は、どうしても冷たくあしらうことができない自分が折れることになるんだろう。
龍之介の癖のない榛色の髪が優しい春風にふわりと揺れて、重なる桜の薄紅と溶け合うように靡くのを見つめながら、彰仁はこっそりと溜め息を零した。
真っ直ぐに向けられる、涙に煌めく栗色の瞳を真っ向から受け止めて、うっすらと濡れたままの頬を両手で包み込んで指先で拭いとりながら、彰仁は龍之介の瞳に映りこむ困り顔の自分の顔を見ながら口を開く。
「じゃあ、こうしようか。龍之介が18歳になったとき、そのときまでに龍之介の気持ちが変わってなかったら……」
「変わらないもん!」
言葉を遮って、はっきりと言い切る龍之介の頬を軽く抓んだ彰仁が、めっ! と軽く睨むと、まだ何か言いたげにしながらも、大人しく口を閉ざす。
真っ直ぐに見つめてくる強い視線を真っ向から受け止めて再び口を開いた。
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