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「ちゃんと最後まで聞いてね。……気持ちが変わらなかったら、龍が18歳になった次の年の今日、もう一度この桜の下でプロポーズしてよ。……万が一、気持ちが変わってしまったら、ここに来なければいいんだ。龍が来なかったら、そのときは気持ちが変わったんだなと思って、これまで通り可愛い弟として付き合っていくから。だけど、龍の気持ちが変わらないでプロポーズをしてくれるなら、そのとき男同士で結婚できるようになっているかはわからないけど、できなかったとしても恋人になろう。それならいいだろ?」
ゆっくりと、言い聞かせるような彰仁の言葉に、じっと耳を傾けていた龍之介の顔がぱっと明るくなり、頬に触れたままだった小さな手がぎゅっと首に縋りついてくる。勢いよく飛びつかれて、しゃがみ込んでいた彰仁がバランスを崩し、龍之介を抱えたまま尻餅をついた。
「うんっ! 18歳になったらもう一回、彰に言うから! ぼく、絶対気持ちは変わらないからね!」
首筋にしがみついたまま明るい声で宣言する龍之介の言葉に、もしも、そのときが来たら……なんて甘い夢を見てしまう自分に苦笑が零れる。
自分では突き放すことも受け入れることもできなくて、龍之介に全てを押し付けた狡さがわかっているだけに、手放しで喜ばれるとちくりと心が痛んだ。
「じゃあ、龍が18歳になった次の春、12年後の今日だよ」
その痛みを心の奥底に押し込めて、指きりの代わりに尻餅をついたままの腿の上に座って抱きついている龍之介の躰を起こすと、彰仁は嬉しそうに上気した顔の綺麗な額に口唇を寄せる。軽く触れるだけの約束のキスをそこに落とした。
指先で拭いきれなかった涙に濡れたままの柔らかな頬にも口唇を滑らせれば、ほんの少し塩辛い味がした。
「うん! 約束だよ!」
力強く頷く龍之介を抱き上げて立たせると、ゆっくりと腰を上げる。ぱたぱたとジーンズについた土を払いながら立ち上がる彰仁の顔を、満面の笑みを浮かべて見上げる龍之介の手をそっと掴みあげた。
「さ、帰ろっか」
「うん!」
手を繋いで龍之介の歩幅にあわせて歩き出す。
背後の満開の桜が、風に揺られて微かな甘い香りを漂わせていた。
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