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「──おれも……おれもずっと好きだったよ」
やっと気持ちを素直に零せば、再び温かな腕の中に囲い込まれる。抱き締められたまま、龍之介の顔を見上げる彰仁の視界にふっと影が差して、柔らかな感触が口唇に触れた。
瞳を閉じてそっと龍之介の背中に腕をまわす。優しく重なっただけで離れていく熱が物足りなくて、榛色の柔らかな髪に手を埋めて引き寄せた彰仁の口唇に優しいキスが舞い降りる瞬間、「彰仁が逃げたいって言ってももう逃がさないよ」と低く甘い声が囁くのが微かな風に乗って耳に届けられた。
さやさやと満開の桜の花毬が優しい風に揺れて祝福の花びらを散らす。
柔らかな月明かりの下に伸びるふたつの影はひとつに重なり合ったまま、まんじりとも動かない。
――捕まえたのか捕まったのか……。
想いが重なっているならそれでいいかと互いの躰を固く抱き締めあうふたりを、蜂蜜色の月と満開の桜の木だけが見守っていた。
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