貞子さんの千羽鶴

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ところが、あろうことかカルテの隅に日本語で「急性白血病」と手書きされていたのです。 あとでメモの数値とカルテを照合すると白血球の数などがピタリと一致しました。 彼女が父親に質問をした日に数値が十万を超えていたこともわかりました。 貞子さんはすべて承知の上で気丈に振舞っていたのです。 そして彼女にはもうひとつの厳しい現実が襲い掛かります。 闘病生活の裏では家族の闘いが繰り広げられていました。 入院する直前、お父さんが莫大な負債を背負ったのです。友人を信用して保証人になってあげていたのですが、失踪されました。 しかし、その程度ならギリギリの生活さえ我慢すれば店の売り上げでカバーできました。 そこへ貞子さんの入院費が加わったのです。 生活苦は彼女の治療に悪影響を及ぼします。急性白血病には輸血が不可欠です。その費用が100ミリリットルで800円、 また身体の節々に激痛が走るため、動くこともままなりません。 その高価な鎮痛剤が一本2000円。これを日に何本も打つのです。激痛に耐えながら。 当時は原爆症は保険の適用外でした。国による補償も補助もありません。 両親はやむなく自宅を売り払いました。貞子さんが大好きだった思い出の場所が失われたことを告げた際、逆に貞子さんは自分を責めたといいます。     
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