【What are people thinking】

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桂井にとって左手首に腕巻き物をした程度は睡眠に支障はきたさなかった。ただ普段起きている七時前に目が覚めて、目覚まし時計の世話にならなかった事は意外だった。桂井は不意に左手首に巻いているMRに一瞥をくれると、その後はいつも通りに昨日に会社の帰り際にスーパーで買った賞味期限間近の半額惣菜パンを朝食とし、ネクタイを締めながら朝の情報番組の占いコーナーを見て、戸締り確認、黒塗りバッグをたすき掛けに出勤した。 見かけはいつもと変わらぬ出社風景。朝の通勤満員電車に乗る前に自販機で缶コーヒーを一杯。ちょうどそれが飲み終わる頃に駅にたどり着く。到着駅で即座に階段を降りられる電車のドアのポジションでホームでは列をなす。耳には携帯用音楽プレーヤー。何も変わらない、毎度のペース、毎度のパターン。 だが、やはり左手首に巻かれた機械類が気になる。MRと呼ばれる人の心を覗ける、という現代社会的観点からすれば、胡散臭さ満点な代物が。普段から携帯電話を時計代わりにしているで、腕時計をしていない桂井だったが、別段、左手首に物を巻いている事に違和感はない。ただ違和感があるのはMRという存在自体だった。 僕はひょっとしたら週刊誌によく載ってある、金運が上昇する謎の数珠か急に女にモテるようになるパワーストーンの類いを買ってしまったのではないか? いや、まだ買ってはいない。だけどそのようなあたかも霊感商法並みにインチキ臭い品を身に付けているのは確かだ。人の心を読み取れるだって? マトモな神経の持ち主なら、そんな言葉を信用するか。昨日のあの時は気の迷いだった。そう、思いたいけど。     
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