【What are people thinking】

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桂井はMRを付けている事自体に羞恥心を覚え始めた。だが、一方でこの機械を試してみたい衝動にも駆られていた。満員電車の中なら怪しまれる事無く体の接触は可能。左手を広げてそっと誰かの背中に少し当ててみれば嘘か真かは容易に分かる。男にやれば痴漢にも間違えられないだろう。しかし、そこまで桂井は考えても電車の中では実行出来なかった。半信半疑の気持ちが行動を躊躇させる。それはもし仮にMRの機能が本当だとしたら、自分の脳がどのような状況になるかを危惧したから。卒倒するかも知れない。パニック状態になるかも知れない。色々な緊急状態を予想する。 これなら説明書を斜め読みでもいいから読んでおけば良かった。だけど、つまり、そんな僕ってのは何だかんだ思っても、このMRってモノに密かな期待を込めているみたいだなあ。 先ほどまでの含羞(がんしゅう)は忘れて冷静に自分を見つめる桂井。半ば他人事のように自らを俯瞰してはみたが、やはり妙な皮算用は胸襟で望んでいると再認識した。満員電車の中、両手で釣り輪を捕まえながら桂井はMRを一瞥して、やはり最初は会社の同僚に試してみよう、と内心で決めた。 会社のある駅に到着すると、早速目前の階段を降り、改札口を定期で通る。構内の人込みラッシュの流れに身を任せ、熟(こな)れた感じで駅を出て一息吐いてから会社へ向かう。何も問題ないここ五年近くのルーティンな出勤ペースにてスタイル。     
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