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「はあ? 今、インフルエンザか何かが流行っているのか」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、まあ、その何だ。元気で何より」
「何を言ってんだ、お前。まだ、寝ぼけてるのかよ」
眉間に皺を寄せる鳥越に対して苦笑いで返す桂井。そして、しばらく考え込んだ様子を見せると、
「なあ、鳥越。お前さ昨日、いや、一昨日か。何人か引き連れて居酒屋で飲んでなかったか?」
「は?」
桂井からの意表をついた急な質問に戸惑う鳥越。すると間髪入れず桂井が、
「いや、たまたまお前に似た奴を見かけてさ。何だったら声をかけて酒を奢ってもらおうかと思ったけど、間違いだったら気まずくなるから無視したんだけどさ」
「ああ、そうだったのか。確かに一昨日の夜は学生時代の連中と飲んでたわ。何だよ、お前も近くにいたのかよ」
桂井はほんの少し戸惑いの表情を見せたが、すぐに微かに相好を崩し、
「……そう、偶然、居合わせたんだよ。偶然な」
鳥越は含み笑いをしている桂井に、僅かな違和感を覚えたが、特に穿つ事はなく歩を進めた。
MR……間違いない。
一方、桂井は気色ばんだ様子を見せながらも平静を装い、鳥越と取り留めのない会話を交わしつつ会社へと向かって行った。心中、MRに対して信任を覚えて。
終業。
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