【What are people thinking】

16/55

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
 桂井は仕事を終えるとわき目もふれずに即刻退社した。早く帰宅してMRの使用説明書を確認したいからだ。 本日の仕事中は鳥越以外に他の同僚にMRを使って読心をせず、一見すると桂井は落ち着き払った様子で業務をこなしていた。だが、内意では上気していて、仕事は上の空。気持ちがそわそわとして、貧乏ゆすりが止まらなかった。本当は鳥越以外にも読心を試してみたかったが、一度もしくは一日のうちで多数の人間を読心すると、脳に対して精神的負担が大きくなるのではないか、と慎重な桂井は考えたらから、複数の人間にMRを使わなかったのだ。 まずは家に帰ってセールスマンが置いていったMRに関する書類を熟読しなければ。 鳥越に読心を試す前は懸念と疑念が交差していた桂井だったが、実際に使用してみて鳥越の人格や過去の記録が、まるで履歴書を読むかのようにすんなりと頭に入ってきた事で、桂井はMRに対してかなりの信用を持つようになった。 あの感覚は妙なトリップ状態の出来事ではなかった。勿論、寝呆けの類いでもない。ちゃんと自覚症状あっての経験、いや、精神的体験だったはずだ。 桂井は確信を深める。人の心が読める、というおよそSF的かつ超現実的な行為が可能になった、と。     
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加