【What are people thinking】

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だけ。好きな女性と僕の好意がシンクロしない。女性の気持ちは難しいものだ。異性、いや、翻れば同性だって分からない。言ってみれば人間の心を察知できないというのは、改めて考えてみると、ひどく不便で恐ろしい事だ。相手がどんな人間か理解できないなら、それこそ善人なのか凶悪なのかも区別できないのだから。こんな息苦しい時代だからこそ、こんな隣人が不気味に見える都会だからこそ、事故や事件に巻き込まれないためにも、自らの保身として、ある程度は人との付き合いの中で、その個人の性格なりを把握しておかなければならないのではないか。そうでもしなければ、自分の身に危険や災難が降りかかるかも知れないんだ。友人関係にまで発展した人間が、とんでもなく卑劣で残虐な奴だったらどうする。はたして金をせびられ、暴力をふるわれ、自分の日常生活を無茶苦茶にされてしまう可能性だってある。そう……当然ではあるが、相手の気持ちが分からなければ、人生というのはどうにも非生産的になるだけの、言ってしまえば一方的に傷つくだけの、無慈悲かつ悲痛なものになりかねないぞ。  長い懊悩。その冗長ともいえる思案を、桂井(かつらい)健史(けんじ)本人は哲学的に昇華して捉えている最中だったので、突然、一人暮らしの自分のアパートに訪れたセールスマンを部屋に招いたのは、ある意味必然的な流れだった。 そのセールスマンが訪問販売してきた時の惹句が、 「あなたは人の心を覗きたいとは思いませんか?」 だったのだから。さらに流暢に続けて、     
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