【What are people thinking】

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だが、そんな桂井でも仁科には奥手になっていた。会社の同僚である手前もあり、桂井の想いを仁科に告白した後に成就したならば角は立たないが、もし断られたらならばお互いの気まずい空気は元より、社内でもいずれ噂になり桂井自身が今後会社に居づらくなる。他の社員が不倫や浮気をしているという話は幾らでも跋扈している桂井の会社、ひいては一般の勤め会社もそのような不貞行為が慣例化しているとはいえ、桂井はその類いの醜聞に巻き込まれるのは人一倍嫌っていた。 そのような桂井の配慮もある。 だが、それ以上に仁科亜紗美に対する純粋な好意の方が、桂井が仁科を前にして軽率な行動を取れない理由が強い。 僕は本当に仁科さんの事が好きなんだ。だからそう簡単に告白なんて出来ない。ヘタに失敗して今の友人もしくは同僚としての友好な関係を崩したくない。 中学生レベルの及び腰恋愛観ではあるが、桂井の中では仁科には女性の理想像が出来上がっており、おいそれと簡単に手を出せる存在ではなかった。無論、仁科が他の男性社員と仲良くしていたら嫉妬する。だが、仁科亜紗美は人当たりが誰にでも良いから、あんな笑顔で対応するんだな、と無理に理由付けして自分自身納得する。それは一種の認知的不協和の思考。 兎にも角にも桂井にとって仁科は分かりやすい程に、片思い一途かつ憧れの好きな女性だった。そんな桂井が仁科について知っているだいたいの住まいや会社まで使っている沿線なのどのお定まりの見聞以外で、唯一耳にしたプライベートな情報は、今は彼氏がいないらしい、とのこと。その点に桂井は一縷の望みを託している。だが、自分が早く行動を起こさなければいずれ仁科も他の男と付き合う事になる、というリスクも覚える。     
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