【What are people thinking】

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そんな葛藤する桂井にとってMRは仁科の気持ちを探る絶好のアイテムであった。少なくとも自分に脈があるかは分かる。しかし、桂井の心中には妙な躊躇いがあった。MRのような機器をつかって、自分が本当に好きな人の心を探って良いものか? というある種道徳観に依拠した思い。それが桂井を逡巡させている。仁科の本心を知る事への不安もある。もし、自分に何の興味も抱いていなかったら、それは桂井にとってショック以外の何物でもない。だが、それ以上に真に好意のある異性だからこそ、MRなどの機械に頼らず姑息な手段抜きで告白したい、という気持ちがあった。それもやはり桂井の善性の精神からというよりは、学生時分の自己満足感からなる幼稚な恋愛純愛観による発想なのだが、桂井本人は仁科を目の前にして、自分の想いを自分の口で伝えたいという意識が強かった。それに今まで仁科に限らず好きな女性の前では、しっかりと正攻法で自分の想いを告げて きた実績がある。カップル成功率は別にしても。 本当に好きな仁科さんだからこそ、敢えてMRの力を使わないで直接自分の想いを告げるべきなのではないか? 桂井は中二病的な恋愛観をこじらせている自分に気づかず、やたらとその点は生真面目に考える。一方で恋愛ピュアな自分に酔っている部分もあるように見えるが。 別に即決する必要はないか。他の人間にも色々と試してからも遅くないし。それに今はMRの試用期間なだけで、もし、気に入ったら購入すれば良いだけの話だ。 ようやく無難な答えを桂井は導き出すと、桂井は再び腕を頭の後ろに組んで寝転ぼうとした。 「あっ……」  桂井は思わず言葉を発するとキッチンに目を向けた。そして、立ち上がりガス台にある鍋を開けた。 「しまったあ、昨日のカレーが残っていたんだ。冷蔵庫に入っている肉も余り気味だから早く使わないといけないんだったなあ。夕飯買い損だったわ」  と桂井はブツクサ独言した後、鍋を軽く火にかけた。カレーを食べるわけではないが、よりコクが深くなるように、という具合と熱殺菌の意味を込めて。  明日は忘れずに食べよう。     
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