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カレーは定期的に煮こみ直せば案外日持ちする、という気構えを前に、桂井の頭の中ではMRについての考察は既に終わっていた。
*
朝の満員電車内。
MRを装着する桂井は、誰とも知れない肩を触れ合う他人の頭の中を覗き込みたい衝動に駆られる。だが、脳の負担を考え一日で読心をするのは五人までと規制している桂井はしっかりと己の欲望を抑える。
やはり優先順位としては会社の連中からだろう。
桂井はやはり身の回りの人間から秘密のパーソナリティを探る事に重きを置いた。会社の人間とは結局は強制的に長い付き合いになる仲。それならば個の本当の性情から過去の出来事、あわよくばそれらに付随する精神的弱みを握れる、というアドバンテージがあると考えたからだ。仁科亜紗美に対するモラルとは程遠い下卑た桂井の感情であるが、そのような性格が本来の桂井健史だった。
早く会社に到着しないかな。
今まで通勤する時には全く浮かばなかった思い。仕事に行く事に胸を躍らせるなんてまるで意識高い系社員だな、と桂井は自己満足。
桂井は会社のある駅で下車すると、珍しくキオスクで缶コーヒーを買って、一飲みしてから、
「よし」
と呟いてテンポ良くターミナルの階段を降りていった。
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