【What are people thinking】

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「知ってるも何も俺みたいなペーペーを連れて、わざわざ向こうの会社まで渉外しに行ったじゃないですか。一人じゃ怖い、何て言って商談の内容も知らない俺を巻き添えにして。気まずかったすよ、あの時は」  一代で自らの会社を立ち上げて成功させた、取引相手の壮年盛りの工藤の威圧感はいまだに桂井は覚えている。工藤はいかにも昔風職人気質の堅物で、鼻下にはカイゼル髭にも似たそれを生やしており、まるで軍人のような気風さえ漂わせていた。直感的に桂井は、自分とは相性が合わないタイプの人間だ、と判断したのも記憶している。 「でもさ、桂井ちゃんってさ人懐っこい顔してるじゃん。人たらし的な雰囲気を醸し出している、みたいな。それだからさ、また、付き合ってほしいんだよね、工藤社長との交渉にさ。何せ相手さん、イイって言ってるのにわざわざウチの会社に出向いて来るのよ、今日。納期の件について」 「ああ、聞いてますよ、その話。相変わらずのムチャ振りの納期日要求でしょ」 「そうなんだよ。工藤さんの所って俺らとか取引先の会社に対して、かなりキツい日数で納期の期間を設定しているんだよね。自分の会社でメンテナンスの時間をかけたいから、相手の会社に対して巻きをかけてさ、急がせるみたいな」 「毎度の事ですよね、工藤さん所の自社優先主義って。だからまた納期を急かしにくる催促ですか」     
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