【What are people thinking】

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 と言って中腰で立ち上がり、MRを付けている手で工藤の肩に触れた。その瞬間、昨日に鳥越にMRを試した時と同様、脳に電流が走ったような感覚に襲われた。自分の脳に他人の記憶がコピーされていく奇妙なセンシビリティ。そして、ほんの一瞬の立ちくらみ。ここまでの過程で約五秒間。 「おお、すまんね」 「いえ」  工藤は桂井に対して何の変化も覚えず謝礼し、桂井も何も気色に見せず着席する。そして、内心、なるほどね、と桂井は思い返し、すぐに工藤との会話のプランを立てた。桂井は言葉を失いつつある菅谷を横目に一人黙して熟考している。一方、菅谷は懸命に工藤へ弁解じみた台詞で対応する。 「はい、工藤さんのご意見も最もなのですが、ウチの方も人員に限界がありまして、その、何と言うか、物理的に、その、あの、チェック機能の精度ばかりに、あの、その、人を割いていてはキリがなくて……」 「しかしだねえ、そうは言ってもお客様第一でしょう。あなたは若いからまだ分からないかも知れないが、この仕事、いや、全ての仕事に対して言える事だけど、仕事ってのは信用こそが命。そんなお座なりの仕事でやったモノをクライアントに渡せますかね。私はねえ、一所懸命にベストを尽くして今まで仕事をしてきた。だからこそバブル崩壊もリーマン・ショックも乗り越えて会社を持続出来てきた。それはひとえに信頼と実績の積み重ねの結果だよ、君ぃ。プロは仕事に妥協してはいけないのだよ」     
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