【What are people thinking】

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「いやあ、まだ駆け出しでゴルフの打ちっぱなしに行く程度で。実際にコースに出てもスコアは百を超えるか超えないかのレベルですよ。それに僕なんかの安月給サラリーマンじゃ道具一式揃えるのも中古品がいっぱいいっぱいで、社長のようなセンスの良いファッション・スタイルにはとても及びません。あ、それに社長のしているタイピンもダックス・ロンドンの物だと見受けられるんですけど、そのシルバー色がまたネクタイを引き立たせていますよね」 「おお、本当に君は目の付け所が素晴らしいな。若いのに紳士の嗜みの何たるかをよく理解しているし、私とも趣味が合いそうだ」  抑揚のある声を響かせ上機嫌になった工藤。明らかに年配の人間が若者から理解されている事の喜びからの高揚感に浸っている工藤の状態だが、無論、桂井にそのような意識はない。MRを使って得た工藤の記憶情報から取捨選択し、工藤の食いついてきそうな話題でもてなしただけのこと。勿論、ゴルフなど桂井はした事ないし興味もない。ただたった今、桂井が述べたゴルフに関するファッションの知識は、工藤の褒めて欲しい所をチョイスして語ったに過ぎない。だから工藤が、よく分かっている、とか、趣味が合いそうだ、など言う事に対しては、そりゃそうでしょうよ、僕はあなたの自分自身の嗜好を反芻しているだけなのだから、と桂井は心底ではほくそ笑んでいた。  しばらく後にお茶を運びに小会議室へやって来た冴木は、やたら和気あいあいと工藤と桂井が話している姿を目の当たりにしてキョトンとし、また、桂井に臨席する菅谷もただ呆然としていた。     
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