【What are people thinking】

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 途中で工藤から、じゃあ今度は一緒にコースをまわってみようじゃないか、と誘われた事には桂井はたじろいだが、適当に話を誤魔化しその後の話は和やかに進み、結局、納期の催促の交渉はなくなって、今まで通りのスケジュール進行で構わない、という工藤の結論に至った。  やはり頑迷固陋な老人だけに一度心の城壁を崩せば一気にオちる。漫画みたいに面白いほど単純だな、ジイさんって奴は。そりゃオレオレ詐欺もなくならないよ。  桂井は心の中で毒づいてはみたものの、MRの使い勝手の良さに改めて感心していた。こんなヤリ方もアリなんだな、だと。 だが、一方で妙な徒労感にも襲われていた。工藤の人生、約六十年分のデータ情報の重みというか、その経験と過去の蓄積が一度に入り込んできた脳の圧力というべきか、その理由は桂井には分からないが、どうにも目を細めるようなダルさを多少覚えた。 「凄いじゃん! 桂井ちゃん。何だよ、ゴルフとかやってたのかよ?」  と言いながら満面の笑みで身体を大きく揺さぶりながら、桂井の背中を大きく叩く菅谷。桂井は多少むせながら、 「いやいや、ほんのかじった程度ですよ」 「マジか? まあ、どうでもイイや。桂井ちゃんのトークのお陰で社長は溜飲を下げたようだし、無理な注文やムチャ振りもなかったし、ナイスだよ、ナイス、グッジョブ! これなら統括部長からクレームも来ないだろう。よし、今夜は一杯奢っちゃう!」  菅谷は一人何度も満足そうに頷き、片や桂井は微笑みながら、     
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