【What are people thinking】

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冴木瑞穂は桂井の意中の人ではない。だが、他の男性社員と同様に、冴木に対しては異性としての魅力は十分に感じている。正直、もし冴木が自分に気があるのならば、それはそれでアリだな、と桂井は邪(よこしま)な気持ちを抱いている。甘い物は別腹、ではないが仁科亜紗美と冴木瑞穂は別物、と区分けして桂井は両者を扱う。男の性(さが)による自己都合。 とりあえず彼女の頭の中を、いや、沈黙した意見を窺ってみるか。 桂井は利己的に勝手に納得して冴木の方へと向かって行った。 またベタなヤリ方だが、と桂井は思いつつ、まだ自分のデスクで仕事をしている冴木に近づき、その背後で足が躓いたポーズをとって、 「おっと、ゴメン」  と言って冴木の肩に手をかけた。MRをしている左手を。  その瞬間、例の如く刹那の電流が身体を流れたような感覚と軽い立ちくらみが桂井を襲う。もはや知っている数秒間の慣例……なのだが、冴木の肩に左手を添えたまましばらく桂井は動けなかった。  マジか?  そんな思いが桂井を支配した事によって。 「桂井さん? 大丈夫ですか」  暫時、動きが止まっている桂井を気にして、冴木は自分の肩に左手を乗せている桂井に声をかけた。 「あ、ああ、ゴメン、ゴメン。ちょっとトイレに行こうとしたら、躓いちゃってね……」  桂井は慌てた様子でそう返すと、便意はないが実際にトイレに向かって、大のコーナーに入り鍵をかけた。 「はあ、ふう」     
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