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桂井も部屋の壁際にピタリと嵌った、セールスマンとは対に位置するベッドの横側にクッションを備え、その部分を背もたれにして座布団の上に座り、脚の低い円卓を挟んだ状態で若いセールスマンと向かい合った。
そして、開口一番、
「人の心が覗きたくないか? とさっき言いましたよね」
とすぐに先のセールス・トークの核心部分を切り出した。
「はい、申し上げました」
柔和な顔をしつつも、瞬きをしない鋭い視線で即答するセールスマン。奇妙な謳い文句を売りに来訪してきたセールスマンに対して質問のつるべ打ち。それを念頭に置いておいた桂井。だが、いざ、その若い訪問販売員と着座して直面してみると、徐々に冷静さを取り戻してきて、自分はおかしいんじゃないか? と桂井は感じ始めた。人の心を覗いてみたいか? なんて言葉に引っかかって、セールスマンを部屋に入れて、わざわざ茶を出して談議する。僕はアホなんじゃないか、とも。
そんな折、セールスマンは背広の内ポケットから名刺を取り出し桂井に差し向けた。
「あ、申し遅れましたが私はこのような者でございます」
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