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「そうですかあ。いや、そうですね。その方がよっぽどてっとり早いですから。実践するのが一番です」
と再び顔つきをセールスマン営業スマイルに戻した。
「一度手首に巻いて八時間体に馴染ませたら、その後のMRの着脱は自由にして下さい。リセットしない限りデフォルト、いわゆる初期状態には戻らないので、ずっと付けっぱなしという必要はないです。ただ精密機械ですので、あまり手荒には扱わないようにして下さい。あと一応、防水加工はしてありますが、水につける様な事も避けて下さい」
田中は簡単に注意事項を口頭で伝えると、適当にパンフレットや説明書の類いを置いていき、そそくさとアタッシュ・ケースを手に取り、
「それでは三日間後にまたご訪問いたしますね。お茶、どうもご馳走様でした」
と言って桂井の所存も聞かずに、疾風のごとく部屋を出て行ってしまった。
ポツネンと一人残された桂井。
何やら狐につままれたような話だな、と思い返し一応は我を取り戻した桂井は、左手首に巻いたMRを見つめながら眉間に皺を寄せた。
「まあ、別に今の時点でお金を払ったわけでもないし、変な契約を結んだわけでもないから、問題は無いっちゃ無いけど」
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