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それから俺は腹立たしいことや理不尽な思いをするたびにそいつを蹴り飛ばしたり殴りつけたりするようになった。 罪悪感はなかった。俺が一人で見ている幻覚なのだ。誰に迷惑をかけているわけでもない。不思議な事にそいつは幻覚なのに確かに殴った感触が手に残るのだ。俺は自分の中に残虐な性格が潜んでいることをそいつを殴り度に思い知らされていった。 もちろん、そいつを殴る時は誰も見ていない時に行うことにしていた。誰もいない空間を殴りつけていたらきっと頭がおかしくなったと思われてしまうだろうからだ。 自分の中に人を追い詰める事に快感を覚える人間と言うことはショックではあったが、それを自覚することで俺は自分自身をよく見つめることができた。人との距離の取り方や人間関係に対する自分の立ち位置をよく見直すようになったのもそいつがいたおかげだと思う。 それに、ストレスが溜まればそいつを殴りつける事ではけ口にすることができた。 高校、大学に入っても俺の人生は順風満帆だった。自慢になってしまうかもしれないけど誰もが知っている大学に入学できたし成績も良かった。ゼミの教授にも気に入られて将来は安泰だった。 そいつは相変わらず俺と同じように成長していたけれど相変わらず服装はみすぼらしく俺に何度も殴られているせいで顔中に痣ができていた。でも、そいつは何も言わずただこちらを無表情に見つめてくるだけだった。
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