死神ちゃん

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 あの頃の僕は死にたかった。  あの日も、死ぬつもりだった。お風呂場で、手首を切って。  ぼんやりとカミソリを眺め、手に取り、手首に当てたところで、 「そんなんじゃ上手く死ねやしないのですよぉー」  舌っ足らずな女の子の声がした。振り返ると、黒い服を着た女の子がいた。幼稚園生ぐらいの子。 「え、どこの子? どっから入ってきたの?」  予期せぬ展開に思わず素で問いかけると、 「死神ちゃんですのぉー」  と両頬に人差し指を当て、小首を傾げて微笑んだ。  良く見たら、少し宙に浮いている。  ああ、ようやく僕は死ねるのか。そんな風に安心して微笑むと、 「ぶっぶー! 死神ちゃんは止めに来たんですぅー」  顔の前で大きく両手でバツを作って死神ちゃんが言う。 「え、死神なんでしょ?」 「そうです! 死神ちゃんは死神です! だから、死の管理をするのです! 貴方の死期は今ではありません、だからぶっぶー! なのです」 「はぁ?」 「今ここで手首を、切っても無駄なのです。そもそもそんなんじゃ死ねないし、痛いだけなのです」  胸を張って死神ちゃんが言う。  そうなのか。少し考えてカミソリをおくと、お風呂場を出る。ワンルームの部屋。  少し悩んで窓やドアがきっちり閉まっていることを確認すると、ガスの元栓をあけ、コンロの火を不正に消し、ガス漏れの状態を作る。これでよし、とソファーに横になる。眠っているあいだに終わればいい。  でも、しばらくなってもなにもならない。起き上がってみると、死神ちゃんが僕の真上に浮かんで笑ってた。 「元栓は締めたんです! 無駄なのです! 貴方がどんなに死にたくても、死ぬ日は決まっているのです、教えられませんが! それまでどんなに死のうとしても死神ちゃんが阻止してあげます!」  なんて傍迷惑な。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!