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死神ちゃんと生活していると、だんだん死ぬのが馬鹿らしくなってきた。死ぬぐらいなら、嫌なことから逃げてやるなんて思うようになった。
仕事を変えたらたいぶ楽になって、恋人ができて、結婚して、子供も生まれた。
結婚式でも、産院でも、死神ちゃんは当たり前のようにいて、誰よりも泣いてた。
娘の結婚式では、ぶびーっと派手に鼻をかんでいて、僕は正直気が散ってしょうがなかった。でも、
「よがっだでずねぇ」
とかズビズビ言ってる死神ちゃんを見たら、なんか今の僕はすごく幸せなんだなって思えた。
死神ちゃんは出会った時からずっと変わらない姿のまま、僕のそばにいた。
癌で死にそうになっている今も。
「そろそろかな?」
誰もいない病室で問いかけると、死神ちゃんは悲しそうな顔をした。
「今までありがとう。あの時、死ななくてよかったよ」
「どういたしまして、なのです」
「ひとつ聞いていいかな? 君は本当に、死神?」
まるで天使みたいだと思ったのだ。ここまで僕を生かしてくれて。
「死神ちゃんは死神ちゃんなんです」
いつもみたいに言い切った後、ちょっと悩んでから、
「でも死神ちゃんも死神ちゃんになる前があったんです。その時、死神ちゃんは猫だったんです。でも生まれてすぐ捨てられて、困ってたら小学生の男の子が助けてくれたんです。猫だった死神ちゃんは体が弱くてすぐ死んじゃったけど、その男の子に感謝してたんです」
そして僕を見て笑った。
「猫の恩返しってやつなのです」
ああ、そういえばいたな。黒猫、みぃという名前の。
「サヨナラなのです。一緒に暮らせて楽しかったのです」
そうして死神ちゃんが片手を振り、僕の意識は途絶えた。
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