深更

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母となって三度目の春、桜の木の下で子守の娘の肩を抱くあなたを見たのです。 ついにその時が来たのだと思いました。 我が身は弱り、あなたを受け入れることも難しく、床に伏せってばかりでしたので、それは致し方ない自然な流れであったかもしれませぬ。 満開となってもなお白く儚げな桜の花。 戻らねば……それでも、子を遺していくのは身を切られるような思いでありました。 あなたに可愛がられる娘の声に耳を塞ぎながら、屋敷を離れて桜の下へ。 この身に流れる血をすべて。 はらはらと散る花に生身の体は埋もれゆき、やがて光の玉が抜け出てこの命は尽きたのです。
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