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命の抜けた我が身を抱き、あなたは涙を流してくれました。
そして、桜の木の下に穴を掘らせて埋めました。
我が身の半分は桜に溶け、あなたとあなたの子を見守り続けることになり、もう半分は人として地獄に堕ち……今もなお、消えぬ想いに苦しみ続けているのです。
あなたは子守の娘に家を与え、子を二人も産ませました。
そのうち飽いて新しい女を求め、娘と子らは捨て置かれ……箍が外れたように罪を重ねていくあなたを見ているのはつらいことでした。
我が身が産んだ子は、健やかに育ってあなたによく似た美しい青年になりました。
やがて、あなたはその子に屋敷を譲り、桜の近くに庵を建てて隠居し、どんな女も寄せ付けずに桜ばかり眺めて暮らしはじめました。
もう一度、この身に血を通わせてあなたの前に生まれ落ちたいと願っても叶うことはなく……うたかたの恋しか出来ぬとわかっていながら子を孕んだために、桜は精が尽きてしまったのです。
薄紅の花を咲かせ、少しずつ、少しずつ、気の遠くなるほどの年を重ねねば精を蓄えることは出来ませぬ。
それは、あなたの命の尺よりずっと長くかかるのです。
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