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武家屋敷から、花弁が
ひらり
一枚の花弁を手に乗せると
後から後から
ひらひら
ひらひら
思わず足を止める。
「桜は寂しがりやなんですよ…。」
自分を見ない人間をわざわざ呼び止めるのだ。赤の他人にヘラヘラと話続ける。品の良さそうな老婦人だが…何時の間にか自分の肩にも沢山の花弁が積もっていた。
「あの人の手を引いて、必死に住まいを捜していたんだ…。」
上総屋にはもう帰らない、そう母親に伝えて欲しいと父に言った。でも、その顔は何だか憑き物が落ちたような、晴れやかさがあった。
「わかった…お前がそう決めたのなら、お父さんはもう何も言えないよ。お母さんにもそう話すとしよう。」
番頭だった父を、母はずーっと軽蔑しているんだと思っていた。
「お父さん、落ち着いたらお母さんには自分から謝るから…。」
本当は、不器用な人だったんだ…。
「来てくれると思いました。」
自身番へと強引に桜から遺体が持ち込まれた頃。
「こっちは、殺人ですから私の管轄でしょうよ。」
文吾さんは、金谷家の跡地に来てくれた。
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