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「この状態では、明日にはもう......」
足跡で水溜りを作りながら病院へ入る司を待っていたのは、絶望的な言葉だった。「お願いします」と何度も言う司に、当直の獣医はめんどくさそうにため息をつく。
「どうせ野良猫ですよね、治療しても......」
「でも、まだ生きてるんですよ!」
「沢山の治療費を野良猫に払えるんですか? 安楽死させたほうが......」
「あなたはそれでも、医者ですか......」
考え方かも知れないが、助かるかもしれない命を放棄しようとするこの獣医に司は怒りを覚えた。もう一度優しく猫を包むと彼は病院を後にした。
アパートへ帰ると、自分の体よりも先に猫の体を綺麗に拭いてやった。ヒーターのスイッチを押し、冷えた体を温めてやる。綺麗なバスタオルに包み、ダンボール箱の中に入れてやった。弱々しく震える体に手を添える。
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