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満開の桜の下に、ふたりの赤ん坊がいる。 ひとりは木下源太という。 包まれている毛布の中に、命名した色紙がある。 もうひとりは名前はない。 この桜の木の正面にある児童保護施設の職員が見つけ、 すぐさまふたりを施設に連れて行った。 名のない赤ん坊は木下源次郎と名づけられた。 源次郎は愛想良く、誰とでも仲良くなった。 源太も源次郎と同じだった。 ふたりは兄弟として育ったのだが、 源太は源次郎の真似をして育っていったように見えた。 源次郎はいつも遠くを見ていた。 源太もそれに付き合った。 ふたりが8才の時に、管轄の市役所に直訴にいった。 『お腹一杯、ご飯を食べたい!』 たったこれだけのことなのだが、自治体はその費用を捻出してくれなかった。 「逆差別問題、何とかすればいいじゃないかっ!  ボクたちのご飯、取り上げてるのはアンタたち役人じゃないのかっ!」 源太は大声で言い放ち、役所内が静まり帰った。 慌てた児童保護施設の職員は、 源太と源次郎たちを連れ去るようにして施設に引き上げた。 特に説教されるわけでもなく、ふたりは作戦を考えた。 「…農業、しようか…  それが一番手っ取り早いよ」 源次郎の言葉に、源太は猛烈に勉強を始めた。     
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