短編小説

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四  男と女の立体物が赤く光るのを止める。女の形をした立体物に妻という名が与えられる。男の形をした立体物に夫という名が与えられる。妻は夫の帰りを待っている。夫は妻のために行動せねばならない。暗闇に閃光が走る。夫がまだ声にはならない声で語りはじめる。 「悪を滅ぼしに行かねばならない」  妻と夫の四方に壁面が設置される。壁面の内側に光が照らされる。壁面の外側に煙が漂う。四方の内ひとつの壁面が倒れる。 「悪がここではないどこかにいる。滅ぼさなければ災いが起きる。それを阻止しなければならない」  妻は夫が善であることを誇りに感じる。夫は妻が善悪の判別ができたことに敬意を払い、愛を持って接し、妻を物ではない存在として認める。暗闇に閃光が走る。夫に足が生えて、彼方へと消える。妻は夫がもう帰ってこないことを知っている。暗闇に閃光が走る。妻に足が生えて、妻が立ち上がる。妻は何かを考えるべきだと気付くことができたが、何を考えるべきなのかを考えることは出来なかったので、その場から一歩も動くことなくしゃがみ込んで、やがて眠った。  眩いばかりの光が、かつて妻と夫が共にいた一軒の家を照らしだす。光の源泉は赤いが、家に当たっている光は無色の白色光だ。虚構が終わって、創造がはじまる。
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