短編小説

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短編小説

一  生き死にを好き嫌いで考える。生きるのが好きだ。死ぬのは嫌いだ。 二  駅で路線図を見つめる。正円の山手線が美しい。欲言えば山手線が緑ではなく赤だったらどんなにいいだろう。日の丸だ。東京の真ん中には皇居がある。東京は少しづつ日の丸になっていく。境界はなくてはならない。暗転、夜が昼になる。  特別なことは何も起きない。残された退屈をいかに過ごすべきか考える。特別なことは起こらないが、特別ではない何かは起きているのだろうか。過ごすべきなどと何故、義務のように考えてしまうのだろうか。暗転、昼が夜になる。 三  山手線と検索して地図を見る。山手線は丸くない。縦長でごつごつしている。まるで女性器だ。まんこ、あるいは、ヴァギナ。どう言っても差し支えはない。その許可はすでに得ている。夥しい悲鳴がこだまする。それは人間の声ではないのかもしれない。隙間風が悲鳴のように聞こえているだけなのかもしれない。悲しんでいる人がいることをまだ認めるわけにはいかない。  男と女、それぞれの形をした立体物が運ばれてくる。男の形をした立体物が赤く光る。女の形をした立体物が赤く光る。義務ではない欲求だ。然したる感動もないが、物語のはじまりというのは得てしてこんな程度のものなのかもしれない。  この先に何が起きるかはすでに全て知っている。この先には何もない。先に進むことに意味はなく無益だが、先に向かって後ろ向きに歩くならば有益なのかもしれない。意味に価値はなく、価値に意味はない。生活が終わって、虚構がはじまる。
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