いつもの。

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そんなやりとりをしていると 貴司の体が足元からうっすらと輝き出した 痛みはないし、体の感覚は残っている。 だが、時間が経つにつれ 徐々に体がうっすらと透け、 透明になっていく様子が見えた 「ぉおっ!?何か透けてるんだけど!?」 「ご心配なく!転生のお時間がやってきただけです。 完全に体が消えたその瞬間新たな人生が始まりますよ」 「転生…?これが、転生…」 輝きは失われず光だけが体を描き 貴司の体は輪郭さえも段々と曖昧になっていく 「はは…これで終わりなのか、呆気なかったな」 あまりにもあっけなく。容赦なく あっという間に 自分が、16年間の生きてきた人生が、文字通り消えていく 「貴司さん貴司さん。まだいます?」 そのときにリリエルが消え掛かる貴司に問い掛けた 「何だよ、最期の感傷にさえ浸らせてくれないのかあんたは」 「いえいえ。 そのつもりは無かったのですがひとつだけ、お話をば」 「…手短に頼むな。俺も全部聞けるか分からない」 「お時間は取りませんよ。 実はですね。先ほど言ってたご家族にお話をすることは 無理と言いましたね?」 「ああ、それが?」 「…確かに、死んでしまった人とお話させることはできませんし 許されてもいません。 ですが…私って結構忘れっぽいんですよね」 「…え?」 「もしかしてもしかすると一言くらいは現世に届けちゃうかもしれません!ですので一言どうぞ!」 「は!?ちょ…今ここでそれ言うのかよ!?」 「急いでください消え掛かってますから! さあ早く!ハリーハリーハリー!」 「うるせえ! クソ!考える時間も無いのかよ!? ええとええと…『今まで育ててくれてありがとう。こんな形で先立つ不孝を許してください、家族に」 「長ぇ! 一言!一言でお願いします!貴司さん見えない!」 「あんたのせいだろ!? ああもう!『ありがとう、愛してる』!」 そう叫びにも似た一言を貴司が吐いた直後 貴司を包んでいた輝きは失われ 辺りには静寂が訪れた 「貴司さん」 リリエルがもう一度問い掛ける 先ほどまでここにいた人間に 「必ず、お届けしますね」
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