いつもの。

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「つまりですね」 リリエルは貴司の前に近寄り指を指す 「貴司さん、貴方は先程死んでしまいました。なので、その魂を輪廻に導き、これから『異世界』に勇者として転生するんです。これは決定事項なのです。拒否権はありません。ドゥーユーアンダスタン?」 「いちいちムカつくなあんた」 輪廻転生という言葉がある かいつまんで言うと死んでしまった人間は転生して 生まれ変わるという話 本当にそんなものがあるとは思わなかった。 だが、転生するということは今までの『自分』を捨てるということだ。 たかだか10年そこらしか生きられなかったけれど 自分を育ててくれた両親や家族、気の合う友人、感謝してもしきれない人達は沢山いた。 「なら、せめて…家族だけにでも話をさせてくれないか?」 「一言だけでいいんだ。…両親より先に死んでる時点で親不孝者だけどさ。このまま何も言わないで逝くなんて恩知らずなことはしたくないんだよ。だから…」 「駄目です」 貴司の懇願を一蹴するかのように一言だけ リリエルは短く告げた ほんの一瞬だけ無言の時が過ぎると 彼女は困った表情を浮かべ 再びおちゃらけた声色で喋りだした 「あー…まあその…貴司さんのお気持ちは分からなくはないッスけど、そういうのダメなんスよ」 「…どうしてだ?そういう決まりでもあるのか?」 「そんなところッス。詳しくはお仕事なので言えないッスけど…死んだ人間はいたずらに現世に戻しちゃいけないし戻らせちゃいけないんです。すみません、貴司さんには酷なお話になりますけど」 「いや、いいよ。決まりなら、仕方ないんだろうな」 「…いいんスか?自分で言うのもアレなんスけど こんな説明で納得なんて普通はしないと思いますけど」 「良いわけはないよ。 けれど、それが決まりなんだろ? ここで俺が文句を言ったとして何か変わったりするのか?」 「いえ全く」 「あのな。アレだって言うなら少しは言い辛いような素振りでも見せろよ。 でも…まあ、つまりそういうことだよ そうするしかないなら受け入れるしかないってことだ」 「大人なんスね。もっと素直に泣き叫んだり罵声を上げたりしてくれちゃってもいいんスよ?」 「なんだそりゃ、拒否権ないって言ったのあんただろ。泣いて何になるってんだよ」 「それは…」 そう聞くとリリエルが少し間を置き やがてわざとらしくニヤリと微笑みを浮かべる 「泣いた顔が見れます」 「あんたやっぱり悪魔だろ」
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