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末娘は生まれて一番の幸せを感じました。自分だけが王子様に選ばれて、着飾った大勢の人や音楽隊や召使に囲まれて特別扱いをされているのです。これこそが自分にふさわしい立場だとはっきり感じました。
遠巻きに見守る人たちは皆、羨望の眼差しを向けています。彼女こそが勝者であり、自分は敗者なのだと認めている目でした。そのなかには彼女に灰をかけたいじわるな継母と、きれいなドレスが似合っていない不器量な姉たちもいました。末娘は万感を込めて、にっこりと勝者の笑みを浮かべました。
しかし幸せな時間はそう長く続きません。0時の鐘が鳴り出した瞬間、約束を思い出した末娘は慌てて王子様のもとを去りました。
その際、何か自分につながる手がかりになるものをと、履いていた靴を片方脱いで置いてきました。小柄な末娘は、会場にいるなかで自分の足が一番小さいとわかっていたのです。
後日、予想通りに王子様は靴を持って、彼女を探し当てに来てくれました。この分なら結婚した後も、王子様を思い通りに操ることはたやすいでしょう。
屋敷を離れるときに、女中が自分も一緒に行きたいと申し出ましたが、断りました。彼女は召使のなかで一番古く、ほかの召使が何も言えないのをいいことにいばっていて、自分は怠けてばかりでした。そんな人を連れて行っては恥をかきます。
代わりに彼女が仕立ててくれたドレスを、お礼としてあげました。売れば少しはお金になるでしょう。
女中は「このドレスを大事にしてくれないのか」と残念がりました。お城へいけばその程度のドレスはたくさんありますから、いらないと末娘は答えました。
女中は最後に「実は私はあなたのおばあさんだ」と言いました。末娘は適当に合わせて「そうね。ありがとう、魔法使いのおばあさん」とにっこり笑いました。
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