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※※※
カーテンレールを軽快に走る、ランナーの音。
まぶしさに顔をしかめながら、眼を開く。
「おはよう。昨日の夜は、よく眠れたかしら?」
……自分が、夜の寝付きが悪いということを、知っているくせに。
「いや、自分すごい低血圧っていうか……朝が弱いっていうか……」
知ってるでしょ、という非難もこめて、声の主に告げる。
けれど、からかうような笑いを消さない彼女。
むしろ、嫌になるくらいの陽光を背に、ベッドの自分へ近づいてくる。
「知ってるわ。私の血を吸って、ともに眠ったこともね」
あえて首元を見せつけるように、彼女はこちらへ寄りそってくる。
その細い首先には、小さな二つのくぼみ。
――吸血鬼である、自分の牙が。
獲物と定めたものへ突き立てる、従属の楔。
「でもね。私、朝を嫌がるあなたが見たいのよ?」
しかし彼女は、その刻印など意に介さない様子で、話しかけてきやがる。
「だから、その様子を観察させなさい」
「いや、だから……」
反論しようとするこちらの顎を引いて、彼女は言った。
異様に青白い肌と、血のような紅い瞳。
その、隠された本性を、覗かせた姿で。
「――ペットは、主人の意見に逆らっちゃだめよ?」
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