SHADOW DAYS

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 目を覚ますと、そこには人影があった。文字通り、人影なのだ。人の影しかない。影の主はそばにいない。ただ、自室の白い壁にゆらりと影だけが存在している。  叫び声はあげなかった。というよりはどうせ夢だろうくらいにか思えていない。 「……夢、かな」  典型的かもしれないが、自分の頬をつねってみる。夢ではないことだけがわかった。  もちろん、壁の影は自分のものではない。俺は布団の中にいるのだ。壁に立ち姿の影などうつるわけがない。最初は泥棒でも忍び込んだのか、とか、幽霊なのか、とか色々考えた。前者はどうやらなさそうなので、幽霊なのだろうか。 「お前、幽霊?」  答えるわけもないのに声に出す。しかし、予想に反して影は反応した。首をかしげる仕草。自分でも幽霊かどうかわからない、ということなんだろうか?  そしてだんだんと寝起きでぼーっとしていた頭も覚醒してくる。夢じゃないんだなとは思ったが、不思議と怖くはない。なぜかわからないけれど、特段自分に害をなすような存在にも見えなかった。  ひとまず体を起こし、影のそばに近づく。すると、朝日が窓から差し込むため、俺の影も壁にうつる。影はそっと動いて、俺の影の手に触れた。 「ぅえっ?」  俺はつい素っ頓狂は声を上げた。手を触れられている感触がある。するとゆっくり俺の手を、それは広げようとする。そして、俺の手のひらを細い指先でなぞる。どうやら文字を書いているようだ。 「……コッコ?」  影を見ると、それはうなずく。 「もしかしてお前の名前?」  ぶんぶんと大きくかぶりを振る影。 「コッコね。名前はわかった。俺は裕太。原田裕太。いや、うん、自己紹介は大切なんだけど……それよりさ」  俺はしどろもどろになった。これが夢ではなく現実なのはわかったが、一体どういうことなのか思考は追い付かない。  どうして?  いきなり?  ここに?  疑問ばかりが頭に浮かぶ。この部屋が曰く付きとは聞いてない。そもそもこの部屋に住んで3年目で、これまで幽霊なんて見たこともないし、不思議なことなんて起きた記憶もない。本当に突然だ。理由も、どうしていきなり現れたかもわからない。どこかに肝試しにいって罰当たりなことをしたということもない。そもそも幽霊なのかもわからない……本人曰くだが。
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