SHADOW DAYS

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 大学三年生の終わり。そろそろ就職について考えないといけない。けれど、何がしたいのか自分でもいまいちわかっていないというのが本音だ。早いやつだとすでに就活の準備をしている。大手企業に入るならこれくらいから準備をしないといけない、と学内の就職支援の職員も口酸っぱく言っている。必修だからと受けさせられているキャリア支援の授業でも「今からの準備が大切」「ここでの頑張りが将来を決める」だとか言われる。  正直なところ、そういう話をされてもさっぱり将来のビジョンが見えてこないのだ。特にこの会社に入ってこんなことがしたい、というのもない。しいて言うなら大企業でなくていいから、とりあえず就職だけできればいいという消極的な気持ちがあるくらいだ。……なにもわからなくて、不安な気持ちでいっぱいなのはコッコじゃなくて、俺だ。 ――どうしたの?  コッコは首をかしげるのが癖なのか、またもや同じ動作でその言葉を手のひらに書く。 「いや、何もないよ」  俺はかぶりを振って無理やり笑うのであった。  その日から二人(?)の共同生活が始まった。コッコは影だが、影としてうつっているものになら触れることができる。伝えたいことは俺の手の影に触れて文字を書くし、コーヒーメーカーの影が壁にうつっている朝はボタンをぽちっと押して、コーヒーの香りで俺を起こしてくれる。朝が苦手な俺は大助かりだ。ただし、コッコはすこし雑な性格なのか、毎回コーヒーの濃さが違う。それはそれで楽しいのだけれど。  もちろん影がないと物理的な行動はできないため、できることも限られてくる。だからできる限りつまらなくないように、家を出るときはカーテンを開けて部屋を明るくする。影さえあればできることも増える。テレビのチャンネルも変えられるし、本も読めるらしい。壁にうつる影では人影と本が一緒に動いているのに、実際を見ると本のページだけめくれているのは何となく面白くもある。  しかし、本当に静かな共同生活だ。大きな音を立てないコッコ。本当に影絵のような存在だ。……いつ消えてもおかしくないんじゃないかと思ってしまう。別にそれは依然と変わらない生活に戻るだけなんだけれど、やはりどこか寂しいものだと思う。
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