SHADOW DAYS

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 最初は何となくコッコの存在は、俺の不安が生み出した幻想なんじゃないかと思っていた。将来の不安。自分がしたいことがわからない不安。不安だらけの俺は病気にでもなってしまっているんじゃないか、なんて。だから毎朝コーヒーの香りと共に目が覚めることに安心する。本が勝手にめくれてることに安心する。俺は病気じゃない。ちゃんとコッコは存在するんだと。  でも、俺はひどいやつだなとも思う。病気じゃなくて安心したけれど、コッコはきっと不安だ。ずっと不安だ。自分の名前以外わからない。人間みたいに寿命があるのかすらわからない。俺以上にわからないことだらけ。もし、俺の幻だったならコッコの抱える不安も俺の幻でしかないのに。 ――どうしたの?  コッコは考え事をする俺の顔を見たのか、背中に文字を書く。最近は背中や手のひらに書かれた文字を読み取るのも早くなった。 「いや、ちょっと考え事してただけ」  後ろを振り返っても誰もいないから、壁にうつるコッコを見る。もし、このまま消えてしまったらコッコの存在は俺にしか覚えられないんだな。いや、もしかしたら数年経ったら俺だって、あれは夢だったのかもだなんてコッコの存在を忘れるのかもしれない。 「そうだ」  俺は不意に立ち上がり、クローゼットを漁った。少しほこりをかぶった一眼レフカメラ。高校時代は写真部だった。親にねだりにねだって、そして自分でもバイトをして購入したカメラ。大学に入って一応写真部には所属していたけれど、ほとんど写真は撮らずにしゃべるだけのサークルだったため、結局は幽霊部員みたいになっている。まじめに写真を撮る人なんていなかった。そんなこともあって最近はあんまりカメラにも触れていなかった。 「コッコ。こっち向いて。はい、チーズ」  俺は壁にうつる自分とコッコの影の写真を撮った。液晶画面で確認してみると、ちゃんとコッコの姿も写っている。 「よく撮れてる。いいね」  その日から毎日最低一枚はコッコの写真を撮るのが日課になった。本をめくるコッコと、傍から見ると勝手にめくれている本の写真。テレビのチャンネルを変えるコッコと、空中に浮かぶリモコンの写真。コーヒーの用意をしてくれるコッコと、ゆらゆらうごめくコーヒーカップの写真。
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