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写真はすごいなと思う。色んなものを形に残せる。きれいだなと思ったあの日の空。楽しく感じた瞬間の雰囲気。嬉しそうに笑う街中の誰かの笑顔。思い出だけじゃなく、頭の中だけじゃなく、しっかり形に残せる。なんてすごいことなんだろう。
今日も一眼レフ片手にコッコの姿を撮る。
――照れるなぁ。
なんて、最初は伝えてきたコッコ。でも今は撮られることにもなれたようだ。シルエットしかわからないくせに、リラックスしてるんだなということも伝わってくる。
スーツをハンガーにかけてくれるコッコ。これもやはりコッコの影と、空を舞うスーツとハンガーというシュールな一枚だ。
「なぁ、コッコ」
俺はカメラごしにコッコに話しかける。
コッコは首をかしげる。どうしたの?とでも言うようなその仕草は最初会ったときから何度も見ている。
「俺さ」
カシャ、カシャとシャッターを切る音が静かに響く。
「俺、カメラマンとして生きていきたいんだ。……でも不安なんだ。食べていけるかとか、親に心配かけるんじゃないかとか。周りからどういう風にみられるんだろうとか。もしかしたら就活がうまくいってないからカメラマンになりたいとか思っちゃってるんじゃないか、とか。不安なんだ」
堰を切ったようにあふれ出る言葉たち。でも、ここ最近ずっと考えていた。俺は、カメラマンになりたいんだと。コッコを撮っているうちに。何気ない風景を撮っているうちに。街中の人々を撮っているうちに。ああ、俺はこれがやりたいんだと気づいてしまった。
コッコは何も言わない。ハンガーをかけると、その手が俺の影に重なる。手のひらに文字がゆっくりと書かれていく。
――大丈夫よ。好きに生きなさい。幸せでいられるならそれでいいじゃない。
影なのに、まるでコッコが微笑んだように感じた。そして、コッコは手をキツネの形にして体を揺らした。影絵のキツネはまるで子どもをあやすかのようにコンコンと口を動かした。……そして次の瞬間、コッコの姿がゆらりと消えた。
「コッコ?」
俺は目を見開いて、あたりを見回す。あるのは俺の影だけ。だけど、手のひらの感触はまだ生々しく残る。一眼レフカメラの写真を見ると、そこにはちゃんとコッコの姿がある。
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