奇妙な同居人?

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 ただの綿毛にしか見えないのに、その白いのは捕まえようとする手を避けた。  最初は単に手の動きで生じた空気の流れに乗っただけだと思っていたのだけど、何度捕まえようとしても、風を起こさないようにゆっくり掴もうとしても、その白いのはコロリと転がって手を避けてしまう。両手を使って慎重に捕まえようとしたのに、ひょいと避けられて、ようやくおかしいことに気づいた。  白いのはころころと部屋の床を我が物顔で転がっている。しばし呆然としたあと、そろそろ家を出る時間だということに気づく。  気にはなる。気にはなるが出ないと遅刻してしまう。  後ろ髪を引かれる思いをしつつ、部屋を出て鍵を締め、会社に向かった。  満員電車に揺られながら、あの白いのについて考える。  あれは明らかに捕まえようとした手を避けていた。生き物である可能性が高い。  けど、あんな生き物がいただろうか。虫か何かにはいるのかもしれないが、それにしたって足も目も何もなかったように思う。  スマホで検索してみたけど、やはりそれらしいものは見当たらなかった。強いて言うならユキムシという虫のお腹辺りの白いものが近いかもしれないが、それにしたってそれだけでは生きてられないだろうし、部屋に湧いたあれには虫の身体がついていなかった。  満員電車の中で無理にスマホを使っていたからか、前にいたおじさんがすごく迷惑そうな顔でこちらを睨んで来たので、慌ててスマホをしまう。目線を逸らして何事もなかったように装った。  スマホ弄るくらいいいじゃないかと思わなくもないけど、無暗にもめることもない。  この満員電車という奴にはいつまで経っても慣れる気がしなかった。
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