戦さ場

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丘の上に満開に咲いた桜の大木 暗闇の中、朧に光り輝く 誰か立っている 黒い人影が見える 俺が近付くと、鮮明に姿を現した 吹いている横笛を唇から離す 「此処にいたのか?」 「ええ」 「…相変わらず無茶をなさる」 「はは、お前が傍にいねぇからだ」 「まったく…貴方という人は…」 笑いながら言うお前 「いたのなら助太刀に来いよ」 「いつも『必要ねぇ』とおっしゃる」 「そうだけどよ」 「もう、独りでも申し分ない」 「……そうでもねぇよ」 手を伸ばし、お前の手を取った 温かい手 手を取った俺を、お前は見つめた 「政宗様…」 はっ! 目を開ける 明るい… 桜の木の下に座っていた 辺りを見回す 明るく真っ青な空 「…白昼夢でも見ていたのか?」 ゆっくりゆっくり桜の木を回り歩く 散り、敷きつめられた桜の花びらを踏み締める 一歩、一歩 一周したところで止まり、呟く 「やはりいないか…」 小十郎が立っているのを期待した 「仕方がねぇか…」 ぽつり呟く 「今年も桜を見ようと言ってたのにな」 「お前が約束をたがえたのは、初めてだ…」 「…仕方がねぇ、よな」 先程の小十郎の顔を想い出す 「もう一度笑いかけてくれねぇか…?」 お前に乞い願う 「小十郎…」 下を向く 「政宗様…」 微かに聞こえたお前の声 顔を上げ、声の主を探す 「小十郎っ?!」 桜の木の周りを探す 人っ子ひとりいない 「政宗様!」 またも聞こえ、辺りを見渡す 「政宗様ー!」 丘の下の方から声が 1人の男が斜面を駆け登ってくる 「どうした?」 「どうした?って、いけませんよ政宗様、 お独りで行かれては」 息を切らし、言う 「なんて事はねぇだろ、城から近い場所だ」 「ですが、行き先を告げてもらわないと、 探すのに難儀します」 汗を腕で軽く拭い、安堵の息をつく 「お前なら分かるだろ、小十郎」 口の両端を上げ、言う 「ええ、ですが、父のようにはまだ…」 その言葉に微笑む 「行こうか」 若き二代目小十郎に言う 「はい」 俺は桜の大木を見やる 小十郎も振り返り見る 花びらがハラハラ散る 「行くぞ重綱」 俺は桜の木に別れを告げ、丘を下った 背に風が吹く 桜の花びらが風に乗り、舞い踊る 微かに笛の音がする 俺が大好きだったお前の吹く笛の音が…
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