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「あれ、そう見えちゃう? 今まではバレなかったんだけどな」
ニズがやはり小声で返す。普通の酒場ならここまで声を潜める必要はないが、なんせ客が少なくて静かな上に狭い。誰の耳に入るかわからないので、常に気を張っていなければならない。
「お待ち」
女将がニズとミレナの前に注文の品を置いてすぐに離れていく。小声で話しているので、気を遣ってくれたのかもしれない。
「俺たちが余所者に見える、っていうより、君の目がいいのかもね」
ニズがニタリと笑った。ミレナはここで確信する。ニズは彼女がジロイカと何らかの関係があると予測した上で、彼女に話しかけたのだと。
「目がいい? 初めて言われたわ」
「人の素性を量る目は簡単に身につくものじゃないから、割と目立つと思うんだけどね。言われたことないんだ」
「ええ。お兄さんはその目を見る目があるのね」
「はは、褒めても何もでないよ」
ニズが酒を口に含む。ミレナもそれに倣って、出された飲み物に口をつける。何かの動物のミルクだ。肉はダメでも、命を奪わないミルクならかまわないのか、とぼんやりと考える。
「俺はそんなたいそうな目があるわけじゃないさ。君に似た人を見たことがある」
「あら。口説き文句にしては妙ね?」
彼女が大きく口角を上げて、八重歯をのぞかせる。細められた目と相まって、獲物を狙う獣と相対している気分になる。
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