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老人と別れたギノは、何も考えられないまま酒場に入った。席は空いていて、見たところカウンター席に2人、テーブル席に3人組が二組。ギノはカウンターで誰かと話をする気分でもなく、三人掛けのテーブル席を一人で占領した。
「いらっしゃい。ご注文は?」
「……何か、料理と飲み物を」
女将が近付いてきて注文を取ってくれる。肉が食べたい気分ではあったが、ここでは肉は禁忌だ。適当に店に任せた方がいい。
「お手柄だったね、旦那!」
「だろ? ガッハッハ」
ギノがぼうっと料理を待っていると、隣のテーブルから下品な高笑いが聞こえてきた。3人組の男達が、なにやら嬉しそうに笑っている。ギノは彼らを凝視しないようにしながらも、耳を傾けた。
「黒狩りほどではないが、これだけ報酬が貰えたら十分だな」
「ルッド爺さんには悪いが、トナ神に背いたチュレラ婆さんが悪いよなあ」
「お。お前はそう考えるのか? 俺はチュレラ婆さんがやっていることを知って、放置していたルッド爺さんも同罪だと思うぞ」
「ええ、じゃあ旦那、ルッド爺さんも殺す気だったんですかい?」
「機会があればなあ。ガッハッハ」
(爺さん? 婆さん? ……殺した?)
ギノの脳内で2本の黒い糸がゆらりと動いて、繋がる。
こいつらが、あの老人の妻を殺したのだ。
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