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「お待ち」
女将が料理を運んで来る。ギノはそれに礼を言いながら、3人組を睨み付けた。
「とりあえずもう一杯いっとくか」
「やった! 旦那、太っ腹──」
ガン!
「え?」
大きな音がした。3人組の視線がギノに集まる。それを自覚して初めて、先程の音はギノがコップを雑に置いて出した音だと気付く。
音を立てたのが、苛立ちからであることも。
「どうして笑っていられるんだ。お前たちは人を殺したんだぞ」
恐ろしいくらい掠れた声が出る。
老婆──チュレラは何も悪くなかった。チュレラが匿った黒魔法使いも、ただ、人間の近くで生きていただけなのだ。
悪いのは、人間だ。
無実の黒魔法使いとその周辺の人間を悪とみなす、無知な人間こそが悪者なのだ。
「おいおい、そこの坊主。何を言ってやがる? 俺たちはトナ神の御意志に従って動いただけだ」
「無実の人を殺すのが神の意志なのか? お婆さんが何をしたっていうんだ」
「無実? 黒魔法使いを匿っていたんだぞ?」
「じゃあその黒魔法使いが何をした!」
思わず立ち上がって抗議する。3人組はギノを見たまま固まっている。何を言っているのか本気でわからない、そんな表情だ。ギノからしたら、そんな表情が出来る方が不思議でたまらない。
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